TNR活動に対する獣医師の考えとは?その想いに密着【Box竜之介】vol.3

TNR活動 トップイメージ
11月22日 313頭(獣医師 9名)
11月23日 275頭( 〃  9名)
11月24日 272頭( 〃  10名)
11月25日 323頭( 〃  11名)
11月26日 222頭( 〃  8名)
11月27日 332頭( 〃  12名)
11月28日 196頭( 〃  10名)

計1933頭

これは、2017年11月に竜之介動物病院の「野良猫不妊手術キャンペーン」で不妊手術をおこなった猫の頭数です。一週間という短期間にも関わらず、2,000頭近くものTNRが実施されました。

こんなにも多くの数のTNRを可能にした理由のひとつは、全国から駆け付ける獣医師の姿にあります。

しかし、このようなTNR活動にも賛否両論の意見があると耳にします。

そこで今回は、同キャンペーンに参加していた獣医師さんたちに、TNRに対する考えをインタビューさせていただきました。

TNRって何?

Trap :トラップ(捕獲器で野良猫を捕獲すること)
Neuter :ニューター(不妊手術のこと)
Return :リターン(元の生活場所に戻してやること)

TNRとは、これらの頭文字をとった活動のことを言います。簡単にいうと、「猫を一時的に保護し、不妊手術を施し、元の場所に戻す」ことです。

竜之介動物病院の徳田院長が代表を務めるボランティア団体”Box竜之介”がおこなっている「野良猫不妊手術キャンペーン」は、このTNR活動の一環です。

野良猫の不妊手術キャンペーン03
出典:BoxRyunosuke

 

TNR活動はどうして必要なの?

そもそも、「どうしてTNRが必要なの?」と、思う人もいるかもしれません。私自身も数年前までは、この活動の存在すら知りませんでした。でも今では、TNRの必要性を感じている者のひとりです。

殺処分される猫の7割は子猫

子猫

環境省の発表によると、平成28年度に殺処分された猫の数は45,574頭。そのうち、約7割が幼齢の猫、つまり、まだ離乳もしていない子猫だということが分かっています。これは昨年度に限らず、例年同じような割合になっています。

不妊手術を施して、生まれてくる猫の頭数を抑制することによって殺処分される猫を減らそうとする取り組みがTNR活動の目的のひとつです。
 

Box竜之介のTNRキャンペーン

『殺処分ゼロ』という目標を掲げ、Box竜之介が毎年2月と11月におこなっている活動が「野良猫不妊手術(TNR)キャンペーン」です。

キャンペーン概要

TNRキャンペーンとは、キャンペーン期間中に条件を満たす野良猫に限り、不妊手術を無料でおこなうというものです。
 

必須条件

1.野良猫である
2.ノミ駆除(実費必要)をする
3.耳カットする
4.キャンペーンの趣旨に賛同する
5.日帰りが原則となります

※体重1kg未満の子や、体調が悪い子は手術ができません。

 

その他、キャンペーン内容の詳細については、以下の通りです。
 

期間

竜之介動物病院が定める期間(毎年2月と11月を予定)

※この期間以外は通常通りの金額となります。
 

費用

不妊手術(無料)+外部寄生虫駆除薬(1,080円×頭数分実費必要)
 

お申し込み方法

事前予約が必要です。キャンペーンが近くなると、予約の受付が開始されます。
 

期日などが以前のものになりますが、「殺処分ゼロへ!熊本で野良猫の不妊手術キャンペーン実施」という記事でも、Box竜之介の活動についても紹介しています。
 

猫の捕獲ってどうやるの?

猫の捕獲 トップ画像

野良猫の捕獲は、動物を捕獲するための”捕獲器”というものを使っておこないます。捕獲器が必要な方には、竜之介動物病院で貸し出しもおこなっています。中には、捕獲器を使わずに捕獲される方もいるそうですが、もちろんそれでもOKです。

ただ、キャンペーン当日に病院に猫を連れて行く際は、必ずキャリーバッグやケージ、ダンボールなどに入れる必要があります。なぜなら、いつもと違う環境に置かれた猫が暴れる可能性が高く、猫が逃走したり、又それ追う人が怪我をしてしまうことを防ぐためです。

捕獲器での猫の捕獲については、捕獲現場に密着した以下の記事で詳しく紹介していますので、是非ご覧ください。


 

ボランティアに参加するなら?

ボランティアスタッフ

Box竜之介では、TNRのN=ニューター(不妊手術)をおこなっており、そこでお手伝いをしてくれるボランティアを随時募集しています。

不妊手術自体は、もちろん獣医師の先生がおこないますが、それ以外の受付や術後の状態チェックなどはボランティアスタッフが担当します。

ボランティアの様子については、体験レポートとして以下の記事の中で詳しく紹介していますので、活動内容が気になるという方は、是非チェックしてみてください。


 

獣医師が考えるTNRとは?

TNR活動は、賛否両論の意見があると先述しました。特に病院側の立場としては、動物病院として構えている以上、野良猫の不妊手術のみを無料や安価でおこなうことに対して、難しい問題があることは予想されます。しかしそれでも、この活動を積極的におこなっている獣医師もいるのです。

熊本の竜之介動物病院でおこなわれた「野良猫不妊手術キャンペーン」のTNR活動に賛同し、ボランティアで参加された獣医師の皆さんがそうです。そんな先生たちにTNRについてお話を聞くことができました。

TNRの獣医師インタビュー1

TNRは最良ではないけど今できうる最善

動物が好きで、獣医師として動物に関われることが嬉しいと話すハナ動物病院の院長、太田快作先生。殺処分は、獣医師として避けられない問題だと考え、野良猫問題に真正面から向き合います。自身の地元でも、野良猫不妊手術(TNR)専門の「ねこけん動物病院」を開院するなど、積極的にTNR活動を進めてきました。今回のキャンペーンへも、TNRの勉強を兼ねての参加です。

そんな太田先生に、TNRに対してよく抱かれる疑問のひとつでもある「TNRは、意味があるのか?」という質問を、率直に投げかけてみました。すると太田先生は、野良猫対策として最良ではないけれど、今自分たちができる最善なのだと真摯に答えてくれました。いろんな対策が議論されていく中で、今後もっと良いシステムが生まれるかもしれません。でも今はこれが最善なのだと信じて、目の前の命と向き合う太田先生の熱意を、その真剣な眼差しに感じました。
 

TNRの獣医師インタビュー1

日本人のやさしさがあれば殺処分0は夢ではない

野良猫対策として必要なTNRを進めていくには、TNRの周知が重要だと話す太田先生。日本はまだまだ…と辟易してしまいそうですが、それでも以前に比べると良くなってきた、日本は良い方だ、と言います。というのも、アメリカではアニマルポリスなどによる取り締まりがあるにも関わらず、今でも200万頭にも上る殺処分の現状があるのだとか。もちろん、国土やさまざまな違いもありますが、それに比べて日本の殺処分は、十数年前まで40万頭だった数が現在では6万頭以下にまで減少しています。

太田先生が何より凄いと感じているのは、日本のTNR活動はボランティアという自発的な力が大半を占めているということ。日本人のやさしさがあれば、殺処分を限りなくゼロに近付けるのは夢ではないと話す太田先生の言葉に勇気をもらったような気分でした。

(ハナ動物病院 院長 太田快作先生)
 

TNRの獣医師インタビュー2

1日300匹のTNRなんて信じられない

以前、徳之島でのTNRの活動に参加していたmocoどうぶつ病院の院長、齊藤朋子先生は、同じく同活動に参加していた竜之介動物病院の徳田院長と知り合い、その縁から、熊本地震後に開催されたBox竜之介のTNRにも参加するようになり、今回で3回目になります。

TNRの経験がある齊藤先生にとっても、1日300頭のTNRというのは、信じられない頭数だったのだとか。「その実態をこの目で確かめたくて来たんです!」と快活に話す齊藤先生。地震後のキャンペーン参加の際は、九州復興割を利用して熊本に来たとのことで、なるほど復興割の素敵な活用方法だと感じました。
 

TNRの獣医師インタビュー2

殺処分は獣医師の責任

そんな齊藤先生は、東京の中野区で、野良猫の不妊手術専門の病院を開業し、一人で切り盛りしています。開業の理由は、殺処分をなくすために、今すぐに自分ができる最短距離の方法を選んだのだと言います。さらに、殺処分がなくならないのは、飼い主への教育や啓発ができていない獣医師の責任でもある。だから、本来は目を背けてはいけない問題だと、目を赤らめて話す齊藤先生。思わずこちらまで目頭が熱くなりました。

(mocoどうぶつ病院 院長 齊藤朋子先生)
 

自身のスキルアップをかねて

TNRの獣医師インタビュー3

箕浦千咲先生は、対馬野生生物保護センターで絶滅危惧にも分類されるツシマヤマネコ(希少野生動植物種)の救護や保護、トレーニング、その他にもイベントで啓発活動などをおこなっています。そのため、動物の治療などの臨床の機会が少ないとのことで、今回は自身のスキルアップを兼ねての参加です。他の先生たちのオペを身を乗り出すように熱心に観察していた箕浦先生の姿が印象的だったのを覚えています。
 

TNRの獣医師インタビュー3

野生動物を守りたい

昔から山や自然が好きで、そこに暮らす野生動物を守る仕事がしたいと考えていたという箕浦先生。野良猫は、野生動物に影響を与えることがあるため、対策が欠かせません。対馬でもTNRの必要性を鑑み、行政として野良猫の不妊手術(TNR)を区域ごとにおこなっていますが、TNRの実施頭数が少ないのが現状です。

イリオモテヤマネコという希少な猫が生息する西表島など、条例による頭数コントロールが実際に成功した例もあるのだと教えてくれた箕浦先生。野良猫の頭数をコントロールして、野生動物の未来も、野良猫の今ある命も守りたいと話してくれました。

(‎環境省 対馬野生生物保護センター 希少種保護増殖等専門員 獣医師 箕浦千咲先生)
 

TNRの獣医師インタビュー4

取りこぼされている部分をカバーしたい

SNSなどを通じて、Box竜之介の活動を以前から知っていたというAAC Aoyama Animal Clinicの院長、青山千佳先生も、熊本地震をきっかけに、TNRキャンペーンに参加するようになった一人です。

自身のクリニックでは、ホモトキシコロジーという副作用や後遺症の少ない自然療法や予防医学を推奨し、周囲の方と連携しながらTNRの活動を進めています。

青山先生のクリニックは往診専門でもあるため、飼い主さんとの距離が自ずと近くなると言います。TNR活動もそういった方との協力があって成り立っているのだとか。密着型の青山先生は、特に団体などが引き取れなかった野良猫など、取りこぼされている部分をカバーしたいと語ります。
 

TNRの獣医師インタビュー4

TNRが次の譲渡につながる

青山先生のTNRは、ときに「TN」で終了します。「R」のリターンはせずに、人慣れしそうな野良猫の場合は、出来る限り譲渡まで面倒をみてあげたいと考えているそうです。

譲渡から始まる飼い主さんとの関係。その中で、予防医学を推奨する青山先生は、猫が病気にならないよう飼い主さんへの指導もおこないます。そうして築き上げた信頼関係の中で、また次の譲渡に繋がることもあるのだとか。青山先生から猫を引き取った飼い主さんがその猫の最期を迎えた時、またこの先生から猫を引き取りたいと思わずにはいられないのかもしれません。

(AAC Aoyama Animal Clinic 院長 青山千佳先生)
 

TNRの獣医師インタビュー5

TNRは一石三鳥

大川雄一郎先生が院長を務めるオガタ動物病院は、竜之介動物病院の徳田院長の出身の病院ということもあって数年前からTNRキャンペーンに参加するようになり、今回は大川先生の他にもオガタ動物病院の先生2名も来ていました。

オガタ動物病院では、整形外科などの高度な手術を担当している大川先生ですが、スキルアップもかねて病院スタッフをキャンペーンに参加させていることから、自身もTNRに参加しないわけにはいかないという想いがあるのだとか。不幸な猫が減るだけでなく、新人教育や社会貢献にも繋がるこの活動に対して、一石二鳥以上に得るものがあると考えています。
 

TNRの獣医師インタビュー5

目の前にいる動物と向き合うだけ

オガタ動物病院でたくさんのスタッフをまとめる立場にある大川先生ですが、獣医師を目指したきっかけは、幼い頃に飼っていた犬を動物病院に連れて行った時の獣医師さんの姿に憧れたからなのだとか。子どもの頃の経験というのは、後に大きな影響を与えることが多いものですが、整形外科を得意とし、総合診療に注力する大川先生もそのうちの一人なのだと知って、心の中でこっそり身近な存在に感じました。

そんな大川先生もTNRの必要性を感じながら、やはりこの活動の難しさを感じているそうです。それでも、TNRの効果云々以上に、自分はただ目の前にいる動物と向き合うだけなのだと力強く話していました。

(オガタ動物病院 院長 大川雄一郎先生)
 

さいごに

TNRの手術を見守るボランティアの子どもたち

Box竜之介では、全国から集まった獣医師と、ボランティアスタッフ、そしてキャンペーンに野良猫を連れて来てくれる人たちの協力によって、約2,000頭ものTNRが実現しました。

ボランティアへの参加は、親御さんが一緒であれば、小学生のお子さんも可能です。今回も数名の頼もしい子どもたちがボランティアスタッフとして活動している姿を見かけました。彼女たちは、自身の体験によってTNRという活動を知り、そして命を間近で感じることによってこの活動の意味を、彼女たちなりに考えるのではないでしょうか。

TNRには賛否両論の意見がありますが、どちらにしても、正しい情報とリアルな声を知ってもらいたいという思いでこの記事を書く運びとなりました。読んでくださった方がTNRについて、何か考えるきっかけになれば幸いです。また、貴重な時間を割いて快くお話を聞かせてくださった先生たちに心より感謝致します。

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